「BONX(ボンクス)」は、耳に装着するハンズフリー型のレシーバー。スマートフォンのアプリを起動して仲間とつながれば、レシーバーを通じて、同時に数名で会話することができます。スポーツをしながら仲間と距離を超えて会話を楽しむ、新しいコミュニケーションの形が生まれています。発者であり、株式会社BONX代表取締役CEOの宮坂貴大さんに、製品誕生までのストーリーを語ってもらいました。
僕自身はずっとスノーボードを愛してきました。ある時スキー場公認のサイドカントリー(スキー場のコース外だが、自己責任での滑走が許可されているエリア)を滑っている時に、仲間がはぐれてしまったんです。お互いにスマホは持っていて、通話可能エリアにいたにもかかわらず連絡が取れなかった。危険度が高い場所でコミュニケーションが取れないことにものすごい苦痛を感じたんです。それを解決するためのハンズフリーのガジェットが必要だなと閃いたのが、「BONX」開発のきっかけです。 実は、その発想をする以前に「GoPro」の創業者であるニック・ウッドマンのストーリーを読んでいました。彼はサーファーで、自分の波乗りの姿を撮りたいがために、防水性に優れて、どこでも取り付けられるムービーカメラを開発したんです。そのことが頭にあるタイミングで白馬にスノーボードに行ったら「GoPro」のアメリカ本社社員が偶然遊びにきていて、お互いに意気投合したんです。「これは俺にも何かやれ」というお告げに違いないと思いましたよ(笑)。ただ、特にすごい発想が降ってくるわけでもなかったのですが、自宅に帰って風呂に入っている時に、前述のスキー場でのコミュニケーションの不全に思い至ったんです。
VoIP(ヴォイスオーバーIP)という技術を使っているのですが、インターネット通信をそもそも通信環境が不安定な中で成立させる点に一番苦労しました。最初は山に持っていくたびに絶望していましたね。スノーボードで滑るようなエクストリームな環境では「ぜんぜん使えねえ」と。それでもエンジニアと試行錯誤を重ねた結果、クリアな通信精度を実現することができました。 「BONX」は体験としての革新性を見通していたわけでなくて、電話じゃなくハンズフリーで話せたら超便利でしょうと始めたものでした。ですが、プロトタイプを使ってみたら、楽しさが勝っていました。潜在的なニーズをつかんでいたわけでもなく、便利なだけじゃなくて楽しいなという気持ちになれたんです。映画『私をスキーに連れてって』の中で、トランシーバーのシーンがカッコよかったように、それを現在の技術で実現したのが「BONX」です。それが「遊びを遊び尽くせ」というキャッチフレーズであり、新しいカテゴリーを作っている途中なのだと思っています。スノーボードで感じた不安が開発のきっかけ
ハンズフリーを実現するために「BONX」はスマートフォンを通じたインターネット通信を採用し、耳に装着可能な小型レシーバーの形になりました。さらに、インターネット通信ですからトランシーバーのような距離の制約も受けない点や競合するBluetooth系のコミュニケーションツールでは5名くらいしか繋がれませんが、スマートフォン経由の通信なので10名同時に繋がることができる点も特徴です。将来的には何百人ともつながることができる拡張性があると思っています。
コンサルタントからの転身を後押しした出会い
「ぜんぜん使えねえ」絶望的にも思えた実用化
もう一つは、耳に装着する「シェイプ」には苦労しました。ひょうたん型みたいな中に、大きなボタンをつける形をプロダクトデザイナーと話し合って決めました。手袋をしたままボリュームをコントロールしたかったからです。ただ、人間の耳の形は千差万別で、かつとても繊細なんです。ちょっと合わないだけですぐに痛くなってしまいます。ですから長時間装着する前提と、激しい動きでも落ちないようにするタイトさの両立に試行錯誤しました。留学生が集まる授業にお邪魔して、長時間つけてもらった感想を伺うこともしました。男女を問わず多くの国籍のいろいろな方にフィットするものを地道に開発したんです。素材のシリコンにも幅、太さ、硬度などの要素があるので、たくさんの試作品を作ってテストを繰り返してようやく出来上がりました。
「便利さ」よりも「楽しさ」が勝ったのが嬉しい誤算
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BONX/エクストリームコミュニケーションギア BONX Grip
税込価格 ¥15,800
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