チャーリーへの「シンパティコ」が僕を動かしてくれる【後編】

チャーリーへの「シンパティコ」が僕を動かしてくれる【後編】

写真集「天使の写真」を刊行したばかりの仁木岳彦さんとチャーリーの共通点は写真を撮るのが大好きなこと、そして旅がライフワークになっていること。今回は仁木さんに、なぜ写真という表現を選んだのか、そしてご自身の旅のエピソードについて伺いました。

前回は、チャーリーとの偶然の出会いについてお話をしました。聞けば、チャーリーも写真を撮るのが大好きで、旅が好きという共通点もある。それが結実して、今回彼のサロンでフォトセッションが行えるのも「エンジェル」のお導きだと思っています。

僕は北海道の帯広出身で、大学は東京に出てきましたが、もともと体は丈夫な方ではなかったのです。卒業後はニューヨークに行き、ニューヨークファッション工科大学(FIT)という、ファッション界に多数人材を輩出してる学校を中心に写真の勉強をしました。マンハッタンでたくさん友人ができましたが、そこにはイタリア人も、エストニア人も、トルコ人もいた。そこで出会った友人たちの故郷を旅したいと思ったんです。生まれ育った土地を見てこそ、その人のことがより理解できるし、彼らの魅力がどこから来ているかもわかると思っていたので。

中でもイタリアを旅した時に体が心地よかったんです。はっきりと病気が治るというか、足腰の痛みが癒されていくような感覚がありました。こんな心地いい国はないというくらい調子が良くなった。
そうするとイタリア語を聞こえてくるだけで興奮するようになってしまって、
これはイタリアに移住しなかったら一生後悔するとまで思い詰めて……。とはいえ、イタリアならどこでもいいわけではなく、僕の場合はカメラマンとしてはポートレートやファッションの写真が中心だったので、現実的には仕事が見つかるミラノである必然があったのです。本当はフィレンツェのルネサンスアートに憧れがありました。

じっさいにイタリアに住んでみると、「友だちを作るのが大変じゃない」のにびっくりします。人と人の繋がりを大切にするし、アジア人を差別することもない。パリに住んでいる友人によると、フランスだとフランス人にならなければいけないところがある。もともとイタリアという国じたいがローマ人であり、ナポリ人だったりと、統一前の国単位でバラバラです。だから、僕は日本人としてイタリアに居られる気がするんです。その意味で、居心地いいのもあるし、日本文化にも興味を示してくれる。コミュニケーションが得意な人たちだから、友だちとしゃべったり共有したりするのが大好き。それはファッション業界の人に限らず、人が社会の中心にあって、「シンパティコ」という言葉が重要なところがあるんです。日本だと、あの人仕事できるよね、とか、信用できるよねというところから入りがちです。でも、イタリアでは「シンパティコ」がいちばん。つまり、シンパシーを感じる人、心が通じる人、一緒にいて楽しい人、フレンドリーな人がすごく重要。例えば、チャーリーの友人でもあるパンツェッタ・ジローラモさんを思い浮かべていただけばわかると思います。

僕自身いろんな経験をした逸話があるんですが、伝手というのでもなく、ちょっとした知り合い、友人から仕事の突破口が開かれることもあるし、そこに気の合うイタリア人ができるんです。同世代に限らず、おばあちゃんだったり、近所のおじいちゃんだったり、年上も年下も含めて、すべてが人とのつながりです。急に電話が来て「今夜、コンサート行こう」と誘われて、そのあとにアペリティーボで一杯ひっかけてしゃべるみたいな。それが大げさにいうと人間らしく生きていける空間に生きている幸せを感じるんです。
だから僕も「シンパティコ」を感じる人と仕事がしたいし、「シンパティコ」によって動いていることがある。今回の写真集をプロデュースしてくれた「LEON」編集部のみなさんともそうですし、もちろん、チャーリーにも同じ感情を持っているからこそ、今回のイベントが成立したと思っています。

僕はエンジェルを撮影する巡礼の旅にロシアを含めたヨーロッパ、アメリカも日本も回りました。でも結局、イタリアが多くて、東欧で撮ってもセレクションに入らない。そこで気付いたのですが、芸術家がいた場所でないと、天使は撮れないんです。芸術家不在の地では被写体になるようなエンジェルは残らない。例えばトスカーナのカラーラは、遠くから見ると雪山のように白い。なぜ雪山に見えるかというとぜんぶが大理石の石切場だからです。カラーラの街の近くにもいい天使がいて、大理石が採れる場所には、芸術家が育つという地域性の反映なのだと思います。

エンジェルを探して教会、公園、博物館、美術館とたずね歩きましが、いちばん面白いのは墓地です。墓地にはたくさんエンジェルがいますよ。ヨーロッパに旅に出かける方で、もし時間に余裕があり芸術文化にご興味があれば、ぜひ墓地に行ってみてください。彫刻公園とでも言えそうな佇まいがあって、思ったほどおどろおどろしくありません。現地の人にとっての散歩やジョギングのコースになっているくらいです。
僕が住むミラノでも、墓地こそがいちばん大きなオープンエアミュージアムかもしれません。好んでそこに行くファッションジャーナリストもいると聞いています。静かで、文化があり、歴史もあり、伝統的な貴族のお墓などがあって、死者への追悼の考え方が見えるのが面白いと思います。

最後にエンジェルの魅力について、語らせてください。
じつは、天使が主役のアート作品は少ないんです。キリスト教における絵画や彫刻芸術の中心はイエスキリストであり、聖母マリア様、そして聖人たちです。日本では一般的に天使というと、子どもで中性的な羽根が生えた像を思い浮かべると思いますが、必ずしもそうではないのです。悩みまくっていたり、祈りまくっていたり、戦っている天使もいます。その意味で仏像や観音像と共通するところがあると思います。
主役でないだけに、マリア様が中心の絵の端にいたり、教会の天井にあったりするので見つけにくいこともあります。暗い場所にあることも多く、遠くから見ると綺麗な天使も、望遠レンズでのぞいて見ると、案外そうではなかったりということもあります。できればみなさんにも、そんな主役ではないエンジェルに注目してもらえると嬉しいですね。

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仁木岳彦

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