チャーリー・ヴァイスが旅先から友人たちに宛てる手紙…。チャーリーならではの視点で切り取られた世界の風景や文化が目の前に広がる。 やあ。どうしてますか? まず、吉武広樹さんの「Sola」。ここはすでにミシュラン一ツ星に輝いているけれど、地下にある掘りごたつスタイルでいただく料理はいずれも絶品。フランス人たちも嬉々として靴を脱ぎ、掘りごたつに入りこむ姿は、その食事状況そのものが痛快だ。 それから「Clown Bar」も、パリっ子の熱い視線を集めている。20世紀初頭から続く超老舗ビストロが、その歴史的建築はそのままに、完全に生まれ変わった。ここは自然派ワインを、日本人シェフの渥美創太さんが作りだす料理とともに気軽に味わえる店。パリでは珍しい日曜営業なので、料理人たちもたくさん食べに来る。僕が行った夜も、吉武さんと田中さんが。ふたりは同じ1980年生まれだけど、親分肌でワイルドな吉武さんと、ファッションや音楽にも造詣が深いオタク気質の田中さんはキャラが対照的で、もし日本にいたら交わる機会はなかったかもしれない。そんなふたりがパリで談笑している。それは、すごく豊かな光景だ。 Sola RESTAURANT A.T Clown Bar
今回はパリで出会った日本人シェフの活躍を、松任谷正隆氏へ熱っぽく語っています。
ぼくの大好きなムッシューへ
自動車評論家でもある正隆さんがフランスの息吹きを一番感じる場所は、やはりル・マンかな。いや、あなたは無類の食通。きっと、パリと答えるであろう、と想像しながら僕はこの手紙を書いています。
ここ数日、パリで集中的に食べ歩いている。パリは立ち止まらない。レストラン事情もそう。飲食をめぐる状況も変わり続けているんだ。
今パリで予約のとれない店は、ミシュラン三ツ星のレストランばかりじゃない。「ネオ・ビストロ」と呼ばれる、コースで50ユーロ未満の店に人気が集中している。料理のテクニックは一流。サービスはフレンドリー。高級食材に頼らないから価格は抑えめ。そして佇まいはラスティックシック……そんな店の電話が鳴りっぱなしだ。あまりに電話がつながらないので、パリに住む友人に頼んで直接、店に出向いてリザーヴしてもらったくらいだからね。
さて、そんなパリのなかで今、存在感を示し、進化を見せつけているのが、日本人シェフのフレンチだ。平松宏之さんの「Hi
ramatsu」が、日本人オーナーシェフのレストランとして初めてミシュランの星を獲得したのが2002年。あれから、日本人が言うところの「十二支が一巡」して、もはやパリの日本人シェフは珍しくなく、むしろ信頼すべきブランドのひとつになった。例えば吉野建さんの「Stella Maris」(※注‥現在閉店)、佐藤伸一さんの「Passage53」……今回の滞在ではそんなキラ星に続く、日本人シェフの料理を味わってきた。
そして、4月にオープンしたばかりの田中淳さんの「A.T」。ここは今、パリでもっともホットな店。もともと日本人シェフは盛りつけに定評があるけれど、田中さんのセンスは群を抜いている。外観も内装もモノトーン。そのデザイン性がそのまま、ひとつの必然として皿の上に息づいている。特に感心したのはデセール。華やかな色彩、みずみずしいデコレーションは、現代フレンチではよく目にするもの。けれども、田中シェフが多用するグレーカラーの絶妙なニュアンスといったら! ジグソーパズルの1ピースに見立てた立体が醸しだすクールなテクスチャー、仄かに発光するイエローとブラウンが同居するカラーリング。ドットのようにちりばめられたグレーの配置も含め、黒皿を夜空のように活かしきった、アートのような作品だったね。
多くの若手シェフたちにとって、ミシュランの星を獲ることはもはや最終目標ではない。彼らはその先の「世界」を見ている。パリへの出店は通過点でしかないんだ。とても頼もしいね。
いつか、パリで、正隆さんと食事できる日が来ますように。
Chalie Vice
[Special Thanks:Takefumi Hamada]
CHALIE's Recommend in Paris
ノートルダム寺院近くのロケーション。料理はおまかせコースのみ。日本のテイストを見事に融合させたフレンチが人気。2012年ミシュランにて一ツ星を獲得。
www.restaurant-sola.com
パリの「ピエール・ガニェール」、ベルギー「パストラル」といった名店を経て今年4月にオープン。アーティスティックな美しい皿が絶賛され、瞬く間に話題の店に。
www.atsushitanaka.com/
パリ11区の歴史あるサーカス小屋「シルク・ディヴェール」の側にある、1902年創業の老舗ビストロ。
この5月に生まれ変わった。パリの歴史的建造物にも認定されたインテリアは必見。
[FROM CHALIE]
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