「カバンは道具」から生み出されるもの

「カバンは道具」から生み出されるもの

「ボーデッサン」ディレクターである生嶋時彦さんのインタビューの後編です。今回は、同社のカバン作りの哲学や、目指すものについて伺いました。ユニセックスで世代を超えた魅力を放つカバンは、どうやって生み出されているのでしょうか?

道具としてのカバンを極めたい

道具としてのカバンを極めたい

カバンは道具です。同じ革モノでも靴ならば、照明が落ちたところに赤いパンプスが転がっていたら、ドラマチックに見えます。カバンはそういう撮影対象として存在感を放つようなモノにはなり得ず、もっと道具に近い存在。でも、持つ人、使う人に近く、とても現実的です。カバン作りを38年やっていますが、思ったようにいかないこととの闘いです。作り直しはたくさんありますね。陶芸作家のように上がってきたものを「違う」といって叩き割りたい気分になることもあります。でも、今の実力はこんなものだと、自分を納得させながら作業しています。
僕は人にちょっと「クスッ」とか、「ニヤッ」とさせたい気持ちが強いんです。ふざけているのではく、「なるほどね」といわせたい。関西人のせいでしょうか、サービス精神が旺盛なんです。作ったモノをそのまま素通りされるのが嫌。せっかくボケているのに誰も突っ込んでくれないのはつまらない。誰かに「これカッコイイ」「これ面白いな」「これイイな」といわせたい。うまいもんを食った時に、思わずニヤッとしてしまう感覚のものを作りたいですね。

バッグ作りの8割は素材で決まる

バッグ作りの8割は素材で決まる

バッグの7〜8割は素材で決まります。カバンは袋ですから、布地でも革でも、素材の選択がいちばん重要です。それさえ決まったら、こういう色、こういう形、こういうサイズというのはおのずとついてきます。まず材料ありきで、この色がいちばん映えるだろう、この形がいちばんしっくりくるだろうというプロセスで進めていきます。素材選びに、エネルギーを注ぐのはそれが理由です。
素材選びの過程では、「こういう革ができないか?」「この革はこんな風にならないか?」とプロにぶつけていきます。試行錯誤して仕上げてもらったモノに「それは違う」とダメ出しすることもあります。ある色はうまくいったのに、違う色で作ったら、まったく違うイメージなることも。その繰り返しですね。

男女を問わずに買われていくものが嬉しい

男女を問わずに買われていくものが嬉しい

ボーデッサンのカバン作りは「すきま」狙いです。「こういうモノはほかにはないよね」という提案をしないとこちらを向いてもらえません。たいていのブランドは、ターゲットを絞っています。例えば、
これはいつ持つの?
男性が使うの、女性が使うの?
若い人がターゲットなの、それとも年配の人なの?
僕らはそういうことをいっさい考えません。
谷中にある直営店で、午前中に「これカッコイイね!」と、買ってくれた若い男の子がいました。その日の夕方、同じカバンを60歳過ぎの女性が「軽くていいわね」とお持ちいただいたことがありました。使う人、自分のセンスに合わせて使っていただけるのがいちばん嬉しいです。
商品を卸すにあたって、これはなに売り場に置けばいいですか? メンズですかレディスですか? ビジネスですか、旅行ですか? と聞かれてしまうお店とはなかなかうまくいきません。我々の目指すのは、同じモノを旅行に使ってもいいし、仕事に使う人がいてもいいじゃないかということ。そういう表現が、いい意味で「すきま」になっていたのかもしれません。もちろん、それが目標でしたし、狙っていたところでもあるのです。

カバン作りはいつまでたっても試行錯誤

カバン作りはいつまでたっても試行錯誤

先ほど、若い男性と年配の女性が同じものを購入いただいた話をしましたが、そのカバンはボーデッサンの人気商品である、OV4087というレザーのトートバッグです。水牛のレザーを使用していますが、それは軽さゆえです。厚みと強度のバランスを保ちながら、通常の牛革よりも軽く仕上がります。その水牛の革の表面に少し熱を加えることで、独特のツヤが出ます。さらに、そのままだと少しパリッとしすぎているので、「腰」を取る加工をしています。この材料にたどり着くまでに何年もかかりましたが、おかげさまで好評です。
デザインソースはパリで見たバッグです。百貨店の元祖と呼ばれるパリのボンマルシェを視察した時に、ガーデニング売り場に小さなポケットがついたキャンバスのバッグを見つけたのです。フォルムが「とてもかわいらしいなあ」と思ったんですね。その形を参考にさせてもらって、型紙を何回も取り直して、試行錯誤して作り上げたモデルです。最初は大きなOV4086というものだけでした。でも女性から「このデザインが欲しいけど、ちょっと大きい」という声がありまして、妥協して小さいモデルを作ったのです(笑)。今ではユニセックスで持てる小型の4087のほうが人気です。

職人同士をつなぐのがいちばん大事な仕事

職人同士をつなぐのがいちばん大事な仕事

カバン作りというのは、なかなか繊細です。同じ型紙を元に、同じ裁断をしても、職人が変わるとまったく違うものになってしまうことも多い。僕のところにはいろいろな職人がいるので、「このモデルだったら彼にしよう」とか、「こちらは彼女にしよう」という采配ができます。僕の役割は突き詰めていうと、そんな部分をうまく繋ぐディレクションすることかもしれません。いつも目をつぶればデザインが思い浮かぶわけではないですし、僕自身がデザイナーだとは思っていません。材料とフォルム、そしてニュアンスを作り手にうまく伝えることによって、初めていいモデルができ上がります。

革の経年変化を楽しむために

革の経年変化を楽しむために

チャーリーに褒めてもらった、「クラッター」などのナチュラル系レザーは、職人も革屋さんも、皆さんが嫌がる素材です。僕はナチュラル至上主義ではなくて、革ならこんな革、布地ならこんな布地、キャンバスならこれと、自分の中の価値基準がはっきりしています。そこからは妥協できませんし、プロには僕の要求以上のものを作ってもらいたいと思っています。革は宇宙で唯一の自然素材ですから、それが活きるような表現をカバンに落とし込みたいのです。
ただ、皆さんも勘違いしているところがあります。革は一生モノだとか、経年変化を楽しめるのが革、という表現をよく目にします。じつは、革はどんどん劣化しています。劣化の具合が「味」として許せるのか、「ボロボロ」になって見えるかは紙一重なんです。ある商品の説明書きに、「使えば使うほど味が出ます」と書かれていることがありますが、それは嘘だろう、思うこともあります。
繰り返しますが、革は劣化します。だから、なるべく丁寧に扱ってほしいですし、それによって味になってくれればいいなと思います。エルメスのケリーに味が出たとは、誰もいわないですよね。僕はこれからも、味わいや質感がいっぱい出るカバンを世に送り出したいのです。
<前編はこちら>

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生嶋時彦

PROFILE

生嶋時彦(いくしまときひこ)/バッグブランド「ボーデッサン」デザイナー兼ディレクター。1957年京都府生まれ。全寮制の商船高等専門学校を卒業後、1979年に遠い親戚が立ち上げた「ボーデッサン」に参加する。職人の手によるモノづくりを標榜し、独自のプロダクトを実現すべく38年間にわたって奔走。その姿勢に共感する作り手、売り手、買い手というすべてのジャンルにおいて熱狂的なファンが多い。

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